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よしこたんのアップルパイでシニア起業への道(1)

いつも「誰かの役に立ちたい」と思っている母は、私が物心つく頃から様々なボランティア活動に参加していました。もともとは父の影響のようでしたが、なにかひとつのことを「極めたい」と思う性格のため学習欲が強く、気がつけばいつも「研究」の域に達するほどその知識の広さ、深さに子どもながら驚いていました。

そんな母よしこたん(当時60歳)が、今のようにアップルパイを作り始める前にハマっていたのが「ハーブ」。

きっかけは、新築した家の庭をイングリッシュガーデンにしたいと、2008年に引っ越ししてからコツコツと木を植え、バラを植え、その隙間を埋めるように「足草」として見た目のいいハーブを数種植えて楽しんでいたのですが、「この庭でティータイムできたら幸せだね」という何気ない一言からはじまりました。

まずは市販されているお菓子と紅茶を買ってきて、「会社でおやつ」という夕方30分の社員みんなでするおやつ休憩のお菓子が手作りになってきて(そのほうが安上がりだったから)、母よしこたんがホットケーキやプリンなどを作り始めた頃からハーブティーが登場。なかなかの美味しさと、リラックス効果や頭をスッキリさせる効果などがあることを知り、そこから今度はハーブの効能について興味は移ります。

ある時、「ねえ、私ハーブコーディネーターの資格とろうと思うんだけど」と言うのが早いか教材が届くのが早いか、様々なハーブが次々に宅配便で届き、その数、数十種類。リビングのカウンターの上にはそのハーブたちが入った瓶がずらーっと並べられ、そこから母よしこたんのハーブティー研究が始まりました。

その日の体調や、期待する状態に合わせハーブを調合している様子は、おしゃれというより「魔女」のようでしたが、淹れてくれるお茶を続けて飲むことによって、私の永く続いていた不眠症改善にも一役かってくれるように。これには本当に助かりました。

母よしこたんを「すごいなぁ」と思うのは、こうした研究を続けながら必ず何かしらの効果・結果を出すところです。研究にはいつも大小のゴールがあって、またその先に同じテーマを持った目標を見つけ出すため、継続することによって大きな成果を上げることができるのだと思います。

母よしこたんのハーブティー研究が進むにつれ庭にはハーブが増えていき、自然と理想のイングリッシュガーデンが出来上がってきた頃。今度は「この庭がある環境を活かして、おもてなしができるカフェを作りたいね」という話しが持ち上がりました。

けれど、カフェのオープンとなると建物の一部を飲食提供ができる施設として改装する必要が出てきます。それこそ本気で飲食業を営む気構えがなければ、それらの先行投資は無駄になってしまう・・・。

この夢の「種」をなんとか芽吹かせたいとあれこれ考えていたとき、「イベントスペースカフェ」として不定期ながらカフェをオープンするのはどうか?と提案いただいたのがきっかけで、得意なことを仕事にしている方たちとコラボする形でイベントを企画し、空間を提供しつつそこでハーブティーとスイーツ、ときにはお食事も提供するようになりました。

回を重ねるごとに母よしこたんのこだわりも増し、「会社でおやつ」の時間は新作スイーツの試食とハーブティーの試飲の時間に。これが毎日続くわけですから、その腕前は日に日に確かなものとなっていきました。

よしこたんのスイーツづくりとハーブティー研究が着々と進む中、とうとう野菜も手づくりしたものを食べたい!と、自宅に隣接する空き地(200坪強)を借りて土地を耕し、「永田農法」別名、飢餓農法と呼ばれる無農薬野菜栽培をはじめたのが2011年の冬のことです。

野菜作りは、食の安心・安全を気にするようになって始めたのはもちろん。すでに仕事をリタイアし、日に日に言葉数が少なくなる父を心配して"出番"をつくることも考えてのことでした。

借りた土地が広すぎて手に負えなくなり、社員も総出で作業する日もあったり。次第に畝(うね)も植えた野菜の種類も増え、収穫を楽しみにしていた矢先。東日本大震災が起きたのです。

当時住んでいた茨城県結城市は、震度5弱。

幸いにも軽い被害で済んだものの度重なる余震に怯え、原発の影響を心配して外に出ることも最小限に控えたり。

とてもナーバスになって過ごしていたことを記憶しています。

それから3カ月後。

そうして、

コツコツお世話をし続けた結果、

夏には・・・

「家庭菜園」の域を超えた、尋常ではない量の野菜たちが毎日収穫されるという、なんとも困った事態が起きました。

永田農法で作られた野菜は、うま味がぎゅっと凝縮され、素材そのものが美味しいと料理をしてもこんなにも美味しいものか・・・!と毎度の食事が感動の連続でした。

でも食べきれない・・・。

このとき考えるのは「おすそわけ」です。でもそれができなかったのは、震災による原発の風評が日本中、世界中に広まっていたことを気にしていたから。こんなに美味しく出来上がった野菜たちを、家族・社員以外誰とも分け合えず、「美味しいね~!」の感動を共有できない悲しみ・・・。寂しくて、悔しくて。加工品にしてみてもどうしても余り、泣く泣く捨てることもありました。

そうして夏も終盤に差し掛かったある日。

2011年の東日本大震災から半年が経とうとしていたある日。
茨城県大子町の北に位置するところで、りんご園を営む友人のホーリーさんから、

「これ朝もいできたの~🍎初採れ!よかったら食べて~」

と、1つの葉っぱ付きりんごを頂きました。

「美味しかった〜!」

と伝えたら、今度は袋いっぱいに頂いて。

社内では午後の勤務時間中に毎日30分の休憩があるのですが、飲み物とおやつをいただきながら社員みんなでいろんな話しをするというコミュニケーションの時間「会社でおやつ」は、それから毎日りんごとなりました。でもさすがに生で食べるにも限界が(汗)

りんごを使った料理といえば・・・アップルパイ?

そんな小さなきっかけから母よしこたんのアップルパイづくりは始まりました。

仕事ばかりでなかなか休憩をとらない娘を、なんとかおやつで釣って休ませようとする母よしこたんでしたが、実はアップルパイはあまり好きでなかった私(苦笑)。

初めはホールタイプのアップルパイを作るも、

「切り分けるのが面倒じゃない?」
「わざわざお皿に盛ってフォークで食べるの?」

と文句ばかり。それならと、まずは手で持って食べられるスティック型に改良するところから。

「パイとりんごの分量がちょうどよくひと口におさまるようにして」

「最後にパイの“耳”だけ食べるのがイヤ」
「パイの表面をつやつやにコーティングしないで」
「りんごのシロップ漬けとかジャムとか甘すぎる」
「そんなにたくさん食べたくない」

とまあ・・・今思えばどんだけわがまま言ったんだ(汗)という反省もありますが、母よしこたんはそれにもめげず、むしろチャレンジ魂に火が点いてしまったかのように毎日アップルパイを改良し作り続けてきました。

でも「早くりんごを消費したい」という思惑もあってか、中身のリンゴが多すぎて、パイ生地がりんごの水分でしっとりし過ぎるため、手で持って手軽に食べられるようにするまでも一苦労。パイ生地の層を厚くしてみたり、りんごの分量を少なくしてみたり。


試行錯誤を繰り返すうちにある日玄関先に「10キロ入り」と書かれたりんごの箱が届いていました。

また頂いてしまったのか!?

いえいえ、母よしこたんのアップルパイ研究が止まらなくなり、とうとう自らりんごを取り寄せはじめてしまったのです。

ここまでくるとさすがに、私と一緒にアップルパイ試食にずっと付き合ってくれた社員たちも食べ飽きてきたり、研究テーマによっては食べきれない量ができてしまうこともあり・・・

いよいよ仲間内での集まりやセミナーに参加する際に「差し入れ」として、アップルパイをラッピングして持っていくようになりました。

すると食べたみんなが、

「美味しい!」
「これ売れるんじゃない?」
「こうしたらいいかも!」

と感想やアイデアを毎回たくさん聞かせてくれるので、それを母よしこたんに伝えるとさらにやる気が高まるようでした。


そんなことを繰り返しながら約1年。

「試食」として作り続けたアップルパイの数はなんと・・・



1,000個を超えていました。

アップルパイの「試食」提供を出張先やセミナー、会議や勉強会などで多くの人たちに食べてもらっているうちに、 いつも食べてくれていた人たちからついに、

「このアップルパイ売れるよ・・・!」
「売って欲しい」
「注文したいんだけど」

と言われることが多くなりました。


そして、よしこたんの試行錯誤の日々を写真に撮ってSNSに投稿するうちに、イベントでの販売を薦められるようにもなりました。


「売って・・・みる?」


初めてのイベント出店のときには、まだ家庭用オーブンを使って焼いていたため、作れるアップルパイの数に限りがあるあること。それだけが心配だったのですが、近所のケーキ屋さんのご主人にいろいろ相談し、アドバイスをいただいているうちに、

「うちの余っているオーブン使う?」

と言って業務用オーブンを貸してくださり(!)、3台のオーブンをフル稼働させて二晩徹夜で、なんと・・・

よしこたんひとりで600個のアップルパイを作り上げました。

当日は、よしこたんも初めての売り子となって、自信なさそうな小さな声で

「アップルパイいかがですか~?」

と声をかけるのですが、なかなか売れません。

でも途中から仲間の応援もあって、なんとイベント終了1時間前に完売。
幸先の良いスタートをきることができ、ようやく自分のアップルパイに、自分がしてきたことに自信が持てたようでした。


これを機に、積極的に各地で開催されるイベントをインターネットで探すようになり、外出先では積極的にお店の人に話しかけ紹介していただいたり、回を重ねるごとにお声がけいただくようにもなっていきました。


イベント出店をすると毎回、仲間がよしこたんを応援に、
会いに来てくれる・・・

それがうれしくて楽しくて、どんなに大変でも

「また次回もやろう!やりたい!」

と思うのだそうです。

イベント出店は、根気と労力が必要とされるため毎回準備に膨大な時間を費やします。開催されるイベントの時期に合わせて、アップルパイだけでなく季節の野菜を使ったミートパイや、パンプキンパイ、パーシモンパイなど、季節・数量限定で用意していくためです。

毎回、どうしてそんなに頑張るの?とよしこたんに聞くと、

「食べたいと言ってくれる人にもっとワクワクしてほしいから」
「美味しい!を発見したときの驚く顔を見たいから」

・・・ただそれだけなんだそうです。

イベントがあるおかげで新作登場のきっかけになり、毎回試食をしていただくことがマーケティングにもなって美味しさの追求となり、“美味しいものでココロから笑顔に!”という純粋な想いがファンの心をつかみ、さらに広がる。

ムダなことなんてひとつもないんだ・・・と、よしこたんを見ているといつも勇気をもらえるのでした。

イベントに出店させていただくようになっても、まだまだ美味しいアップルパイ研究に余念がないよしこたん。相変わらず大量の"試食"アップルパイを、せっせと会議やセミナーなど大人数が集まる会場へ運び続けるマーサ。。。

食べてくれた人からの

「このアップルパイ、また美味しくなったね~!」

と言われる声も多くなり、今までスポットで間借りしていた工房では作りきれなくなり。いよいよアップルパイ工房を作るか?という家族会議が行われました。

当初は自宅のキッチンを改装して、とも考えたのですが、りんごだし。アップルパイだし。ガレージの奥、スペース空いてるし。"夢"だし。ということで、アメリカン・ドリームの代名詞的、アップル社創業の原点「ガレージから始める」ストーリーを意識して、自宅のガレージによしこたんのアップルパイ研究専用の、通称「アップルパイ小屋」を建てることを決めました。2012年4月のことです。

3坪(6帖)の小さなDIYガレージキットがさっそく届き、時期的に畑仕事も少なくなっていたので、父が手作りすることを快諾してくれました。

本職の人に頼めば4日間で完成、と言われていたのですが・・・

セメントとブロックで頑丈な基礎を作るところから始まり・・・

キットを組み立て始め・・・